びーぐる・アンケート「心に残る言葉」

ゆっくりと停止
鴻池朋子展「根源的暴力」より神奈川県民ホール2015/10/24〜11/28) 

 同世代の現代アート作家として、いつも注目している鴻池朋子さん。震災後は、「同じものではいられない」「元の生活をトレースするには、まったく違う体になってしまったのだ」(同展図録より)という。私も同じ感覚を覚えて、書き進むことができなかったので、まさに身につまされた。悩み考え、考えあぐねて止まり、厳しい状況をもがきながら製作をしたのではないだろうか。習慣的・自動的に出来てしまう作品を戒める感覚。芸術家が自分を一度「停止」させることは最も難しい。しかし、「停止」することは絶対的に必要だったのだ。紙粘土の無為な物体を経て、鴻池さんは、皮を繋げ、皮に描くことにこだわった。皮を引っ掻きながら彩色していく格闘のあとが生々しい。幅24メートルの皮緞帳。そこに流れる四年半の歳月を私も知らず知らずのうちに重ねていた。悩みは尽きない。表現することは「根源的暴力」。タイトル通り、力強く励まされ、胸をえぐられる展覧会だった。今こそ製作するのだと。