中島悦子「水玉とスコール」 Etsuko Nakashima

水玉とスコール
    中 島 悦 子

埃っぽく、暑い街には、スコールが似合う。毎日、毎日、私達を洗ってください。私達の街を洗ってください。

若い女の足の爪には、オレンジの水玉はじけてる。

ぼくのおとうさんは、がいこくでけんじゅううったことあるんだよ。それはごうほうてきなごらくのいっしゅだからひなんすることはできない。よのなかには、ほんものであれ、おもちゃであれ、けんじゅうをもっているひとともっていないひとがいるのです。てがるにひとをころすひとところさないひとがいるのです。だから、ほんきでいっかいはうってみるひつようがあるのではないかとおもいなおす。

若い女の足の爪には、トルコブルーの水玉はじけてる。

雨宿りをしている人々は、なぜか美しい。欲も時間もしばし止められて、天からの水だけを見ている。

ほうしゃのうは、のませるのはこうりつがわるいので、ばくだんをつくったということだ。
そのとき、そこにいるなんじゅうまんというにんげんはせいかくにせいかくにどうなるのか、どうしてもためしてみたくてたまらなくたまらなくなったらしい。

若い女の足の爪には、ライトピンクの水玉はじけてる。

路上でランブータンを売る女、フランスパンを売る女。どれも中身は古い。食べるとどうなるか分かっているが売っている。覆面をして、店の場所は毎日、何里も変わるから。

おおあめのなか、かさをさしていざかやへ。げんだいしをかたるわれわれのこえは、まわりのだいがくせいのこいのはなし、おおごえにほとんどかきけされてきこえない。てきとうにあいづちをうつ。なぜ、きこえなくなるのか、こんなにてえぶるをかこんであつまっているのに。

毎日、毎日、私達を洗ってください。なんじゅうまんというかずは、かじつにむらがるありではないのに。

諦めが早すぎ! ちょっとやってみただけで「無理」ときめつけるのは時期尚早。もう少し頑張ってみるべき。進歩はある日突然やってくる。(小泉茉莉花の月占術・獅子座より)

プラスティックの椅子にすわって、いつもの店で今日も昼ご飯を食べる。明日も昼ご飯を食べる。明後日も昼ご飯を食べる。暑い風の吹く中、埃の中。青菜の炒め物と春巻き。お茶。鶏のからあげと豆腐。お茶。炒飯と卵スープ。お茶。


木立ち 110号